「キュビズムってどうやって描けばいいの?」と思ったことはありませんか。美術館でピカソの作品を目にしたとき、あの不思議な歪み方や、顔が複数の方向から同時に見えるような感覚に、引きつけられた経験がある方も多いはずです。
でも、いざ自分で描こうとすると、どこから手をつければいいのか分からない。「形を崩す」とは言っても、ただバラバラにすればいいわけでもなさそうで、なかなか踏み出せないという気持ち、とてもよく分かります。
この記事を読むと、キュビズムの基礎的な考え方から、実際に描くための具体的な手順まで、順を追って理解できるようになります。初めてキュビズムに挑戦する方でも、無理なく取り組める内容を中心にまとめています。
キュビズムの誕生の背景や代表的な画家の作品に触れながら、「なぜそう描くのか」という理由を丁寧に解説していきます。描く楽しさを感じながら読み進めてもらえると嬉しいです。
キュビズムの描き方:結論と基本的な考え方
キュビズムとは「多視点」で対象を分解・再構成する表現法
キュビズムを一言で表すなら、「ひとつの対象をいろんな角度から見て、それを一枚の絵に同時に描き込む表現法」といえます。
通常の絵画では、私たちはひとつの場所から対象を見て、その瞬間の見え方をそのまま描きます。でもキュビズムでは、正面・側面・上面など、複数の視点から見た形を同時に画面に並べるという考え方をとります。
キュビズムの本質は「分解」と「再構成」にあります。対象をいったんバラバラにして、それを自分なりのルールで画面上に再び組み立てる、という行為がキュビズムの核心です。
たとえばギターを描くとしましょう。正面から見たボディの丸い形、横から見たときの厚み、弦を上から見たときの細い直線、これらをひとつの画面に配置する。一見バラバラに見えても、「ギターというもの」のあらゆる側面を同時に伝えようとする意図があるわけです。
キュビズムを描く3つの核心ステップ
キュビズムで描く際に、まず意識してほしいことがあります。それを大きく3つに整理すると、次のようになります。
- 対象を多角的に観察し、さまざまな角度からの見え方を頭の中に蓄える
- 対象を幾何学的な形(三角形・四角形・円など)に分解して捉え直す
- 分解したパーツを、ひとつの平面に自由に再配置する
この3ステップは、キュビズムのどんな作品にも共通して流れている考え方です。ただし、これをそのまま機械的にやれば「キュビズムっぽい絵」が完成する、というわけではありません。
大切なのは、それぞれのステップに「なぜそう描くのか」という自分なりの意識を持つことです。「ギターの音が広がる感じを表したい」「人物の内面の複雑さを見せたい」という意図があってはじめて、バラバラに見える形が意味を持ちます。
初めて描くときは、シンプルな形のモチーフ(ギター・ワインボトル・人の顔)を選ぶと取り組みやすいです。
初心者でもキュビズムは描ける?難易度と心構え
結論からいうと、初心者でもキュビズムは十分に描けます。むしろ、「上手く描かなければ」というプレッシャーが薄れやすい表現法でもあります。
写実的なデッサンとは違い、キュビズムでは厳密な描写力よりも「どう見せたいか」という発想力が問われます。形が多少歪んでいても、それがキュビズムの文脈では表現の一部として成立するからです。
ただし、「何でもあり」という誤解は禁物です。ただ形をバラバラに崩すだけでは、キュビズムにはなりません。意図を持って分解し、意図を持って再配置する。この意識があるかどうかが、キュビズムとただの落書きを分ける境界線といえます。
心構えとしては、「正確に描こう」よりも「この対象のどんな側面を見せたいか」を先に考えることをおすすめします。失敗を恐れず、まず手を動かしてみることが大切です。
キュビズムとは何か?基礎知識を押さえよう
キュビズムの意味と誕生の背景
キュビズム(Cubism)という言葉は、フランス語の「cube(立方体)」に由来しています。20世紀初頭、1907年から1914年ごろにかけてフランス・パリで生まれた美術運動で、西洋絵画の歴史を大きく塗り替えた表現様式のひとつです。
それまでの西洋絵画は、ルネサンス以来の遠近法(パースペクティブ)を基礎としていました。ひとつの視点から見た空間を、奥行きのある三次元空間として二次元の画面に再現する、というルールです。
キュビズムはそのルールに正面から疑問を投げかけました。「なぜ絵はひとつの視点から見た瞬間しか描いてはいけないのか」という問いが、この運動の出発点にあります。
セザンヌがキュビズムに与えた影響
キュビズムを語るとき、絶対に外せない人物がポール・セザンヌです。セザンヌ自身はキュビストではありませんが、後のキュビストたちにとって「最大の先駆者」と位置づけられています。
セザンヌが試みたのは、自然の形をすべて「球・円柱・円錐」という基本的な幾何学形体に還元して描くことでした。リンゴや山を描くとき、表面のディテールよりも、その「構造」を画面に定着させようとしたのです。
またセザンヌは、ひとつの絵の中で複数の視点が微妙に混在するような描き方も試みていました。テーブルの上の果物が、角度によって微妙にズレて見えるような感覚、あれがセザンヌ的な「多視点」の萌芽です。ピカソもブラックも、セザンヌの没後に開かれた大規模な回顧展に大きな衝撃を受けたと伝えられています。
ピカソとブラックがもたらした革命
キュビズムを実際に始めたのは、パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックの二人です。ピカソのスペイン的な情熱と、ブラックのフランス的な論理性が融合して、キュビズムという新しい言語が誕生しました。
ピカソが1907年に制作した《アヴィニョンの娘たち》は、キュビズムの出発点とされる作品です。人物の顔が正面と側面から同時に描かれ、身体のパーツが幾何学的に再配置されたこの絵は、当時の画壇に大きな衝撃を与えました。
ブラックはピカソの試みに共鳴し、ともに研究を深めていきます。二人の作品はこの時期、互いにとても似通っており、「ロープで結ばれた登山家」とブラック自身が例えたほど密接な共同作業でした。
分析的キュビズムと総合的キュビズムの違い
キュビズムは大きく2つの段階に分けられます。
| 種類 | 時期 | 特徴 | 代表的な画家 |
|---|---|---|---|
| 分析的キュビズム | 1908〜1912年ごろ | 対象を細かく分解・分析。色彩を抑え、モノクロに近いトーン。複雑な平面が幾何学的に重なり合う | ピカソ、ブラック |
| 総合的キュビズム | 1912年以降 | コラージュを取り入れ、紙や布などの素材を貼り付ける手法(パピエ・コレ)が登場。色彩がやや豊かになり、記号的・平面的な構成に | ピカソ、ブラック、グリス |
分析的キュビズムは、対象を徹底的に「解体」することに主眼を置いています。ギターや顔などを無数の小さな平面に分解し、それを重ね合わせるように配置するため、画面全体がひどく複雑で、何が描かれているか判別しにくいほどです。
総合的キュビズムは、その反省から生まれた段階ともいえます。新聞紙や楽譜の断片、壁紙のパターンなど、実際の素材を画面に貼り付けるコラージュ手法(パピエ・コレ)を取り入れることで、画面はよりシンプルで平面的な構成になりました。
この2段階の違いを知っておくと、美術館でキュビズムの作品を見るときに「あ、これは分析的なほうだな」「こちらは総合的な感じがする」と気づけるようになります。鑑賞の解像度がぐっと上がる知識です。
キュビズムの4つの主な特徴
キュビズムの作品に共通して見られる特徴を整理しておきます。
| 特徴 | 説明 |
|---|---|
| 多視点の同時表現 | 正面・側面・上面などを一枚の画面に混在させる |
| 幾何学的な形の使用 | 対象を三角形・四角形・円などの基本形に分解する |
| 遠近法の放棄 | 奥行きを表現しない、平面的な構成を採用する |
| 限定的な色彩 | 特に分析的キュビズムでは、色を抑えて形を際立たせる |
これらの特徴はそれぞれ独立しているわけではなく、互いに関連して成り立っています。多視点で描こうとすれば自然と形は幾何学的になり、幾何学的に分解すれば遠近法を使いにくくなり、形を際立たせるために色彩を制限する、という流れがあります。
つまりキュビズムの特徴は、「意図的に選んだ表現上の戦略」と見ることができます。それぞれの選択に、「なぜそうするのか」という理由があるのです。
キュビズムの描き方:具体的な手順と技法
ステップ1:対象を多角的な視点で観察する
描き始める前に、まずじっくりと対象を観察することが大切です。正面から見るだけでなく、横から、上から、斜めから、と視点を変えながら、「この角度から見るとこんな形に見える」という情報を積み重ねていきます。
スケッチブックに小さなサムネイルをいくつか描いてみるのがおすすめです。各視点からの見え方を素早く記録するイメージで、細部にこだわらず大まかな輪郭を捉えます。
このステップで時間をかけるほど、後で画面を構成するときに迷いが少なくなります。観察の密度が最終的な作品の深みに直結します。
ステップ2:対象を幾何学的な形に分解する
観察が終わったら、次は対象を幾何学的な形に置き換えていきます。顔であれば、目を楕円形、鼻を三角形、頬を台形、といったように、曲線的なフォルムをできるだけシンプルな形に変換します。
この作業はセザンヌが行ったことと本質的に同じです。「自然の形を、幾何学的な構造として再解釈する」という行為が、キュビズムの土台を作ります。
最初は完璧に分解しようとせず、「おおよそこんな形」という感覚で進めて大丈夫です。厳密であることよりも、形を抽象的に捉え直す思考のプロセスを体感することが目的です。
ステップ3:複数の視点を1枚の画面に配置する
ステップ1で収集した複数の視点からの情報と、ステップ2で分解した幾何学的な形を、いよいよひとつの画面に配置します。
このとき、どの視点のパーツをどこに置くかは、基本的に自由です。ただし完全に無秩序では画面がまとまらないため、ある程度の重心や軸を意識すると良いでしょう。たとえば「顔の正面を中央に置き、側面のパーツを左右に展開する」という大まかな方針を決めておくと配置しやすくなります。
この配置の決断がキュビズムの「再構成」にあたる部分で、作者の個性が最も出やすいステップです。
ステップ4:遠近法を無視した平面的な構成にする
キュビズムでは、奥行きを表現する遠近法(パースペクティブ)を意図的に使いません。遠くにある物を小さく描いたり、消失点に向かって線を収束させたりする必要はありません。
すべてのパーツを同じ平面上に置く感覚で構成します。重なり合うパーツを表現したいときは、単純に上に重ねて描くか、輪郭線を利用して「ここにあるはずのもの」を暗示する程度にとどめます。
この「平面的な処理」は最初は少し不自然に感じるかもしれません。でも慣れてくると、奥行きを廃することで画面に独特の緊張感が生まれることに気づきます。
ステップ5:色彩を限定して形を際立たせる
分析的キュビズムの特徴として、色彩を極力抑えることが挙げられます。茶色・グレー・オリーブ色など、トーンの近い色をベースにして、形の輪郭や面の変化を際立たせる方法です。
なぜ色を減らすのかというと、色が多すぎると目が色の違いを追ってしまい、形の構造が見えにくくなるからです。色彩を絞ることで、鑑賞者の視線が自然と「形」のあり方に集中するようになります。
初心者の方は、最初は鉛筆のみ、または2〜3色の限定パレットで練習すると、形の構成を学ぶのに集中できます。
ステップ6:時間の経過や動きを一枚の絵に込める
キュビズムのより発展的なアイデアとして、「時間の要素を画面に入れる」という考え方があります。静止した瞬間だけでなく、複数の時間軸で見た対象の姿を同時に描くことで、動きや変化を一枚の絵の中に閉じ込めるイメージです。
たとえばドラムを叩いている人物を描くとき、スティックが上がった瞬間と下がった瞬間の両方の腕の位置を同じ画面に描き込む、という表現がこれにあたります。写真では切り取れない「時間の厚み」を視覚化しようとする試みです。
これは少し上級の概念ですが、意識するだけでも作品に独特の深みが生まれます。
自画像をキュビズムで描く実践練習法
キュビズムを学ぶ実践練習として、自画像はとても優れたモチーフです。鏡を用意するだけで手に入るモデルであり、顔という親しみ深い対象を「分解・再構成する」経験は、キュビズムの本質を体感するのに最適です。
練習の手順をまとめます。
- 鏡を見ながら、正面・右側面・左側面・上から見た顔のスケッチをそれぞれ描く
- 各スケッチの顔のパーツ(目・鼻・口・耳・あご)を幾何学的な形に変換する
- 白紙に「この絵で見せたい自分の特徴」を考え、中心となるパーツを決める
- 各視点のパーツを自由に配置し、重なりや輪郭線を利用して画面を構成する
- 色彩は3色以内に絞り、形の対比を際立たせる
初めのうちは「なんかバラバラで変な顔になった」と感じるかもしれません。でもそれで正解です。ピカソの《泣く女》だって、写実的な顔とはまったく違う。その「変さ」の中に表現意図を込めていくことが、キュビズムの醍醐味といえます。
キュビズム描き方の注意点とよくある失敗
形を崩しすぎて対象が不明瞭になる落とし穴
キュビズムを描くとき、最も多い失敗のひとつが「形を崩しすぎて何が描かれているか分からなくなる」という状態です。分解することに集中するあまり、元の対象の面影が消えてしまいます。
キュビズムは「対象の痕跡を残しながら変形する」表現法です。完全に抽象にしてしまうと、キュビズムではなく単なる抽象絵画になってしまいます。
解決策としては、描き進める途中で「これが何を描いた絵か、第三者に伝わるか」を意識的に確認する習慣をつけることです。鑑賞者が「なんとなくギターだと分かる」程度の手がかりを画面に残しておくことが、キュビズムとしての成立条件のひとつといえます。
単なるパズル作業に陥らないための意識
形を分解して並べるという作業は、パズルを組み合わせるような機械的な作業に陥りがちです。「どのパーツをどこに置くか」だけを考えていると、意図のない配置になってしまいます。
大切なのは、「なぜこのパーツをここに置くのか」という理由を常に持ち続けることです。「この角度の目を大きく描くのは、この人物の鋭い視線を強調したいから」という具合に、配置の選択が表現意図と結びついているべきです。
描く前に「この絵で何を伝えたいか」を一言でも言語化しておくと、パズル作業に陥るリスクが大幅に減ります。テーマや感情をメモしておくことをおすすめします。
画面全体の統一感を保つための工夫
複数の視点のパーツを自由に配置すると、画面全体がバラバラになって落ち着かない印象になることがあります。統一感を保つためのポイントをいくつか挙げます。
- 色彩パレットを統一する(同系色・限定色を使う)
- 画面全体を貫く主要な線の方向を決める(縦・横・斜めのどれかを優先)
- 余白や背景の処理を意識する(背景も単純な幾何学形で統一)
特に色彩の統一は即効性があります。バラバラなパーツも、同じ色調でまとめると一枚の絵としての統一感が自然に生まれます。ピカソの初期キュビズム作品がモノクロに近い茶系でまとめられているのも、このためです。
背景を白のままにせず、メインのモチーフと同じ幾何学形のパターンで埋めていくと、画面全体に統一感と密度が生まれます。
鑑賞者に意図を伝えるための表現のコツ
キュビズムは「描き手の意図を鑑賞者に伝える」という点において、実は難易度が高い表現法です。形が崩れているぶん、意図が伝わりにくくなるリスクがあります。
そのためのコツとして、「特徴的なパーツをひとつ、分かりやすい形で残す」という方法があります。たとえばギターを描くときに、弦やサウンドホールの一部だけは比較的写実的に残しておく。それがあるだけで、鑑賞者は「これはギターだ」と解読できるようになります。
作品に「タイトル」をつけることも有効な手段です。《ギター:6つの時間》のようなタイトルがあれば、「時間の経過を表した絵なんだ」という文脈が鑑賞者に届きます。タイトルも表現の一部と考えると、表現の幅が広がります。
キュビズムを描くメリットと得られる力
物体の本質を深く捉える観察力が向上する
キュビズムを描くためには、対象をあらゆる角度から観察することが必要です。この習慣は、通常の写実的な描画以上に、物事を深く見る力を鍛えてくれます。
日常的に「このモノはどんな構造をしているか」「正面からは見えないけど、横からはどう見えるか」と考えるようになると、観察の解像度が全体的に上がっていきます。アートの技法を学ぶことが、日常の見方そのものを変えてくれるのは、とても面白い体験です。
キュビズムで培った「多角的に見る習慣」は、物の本質を見抜く力として、絵を描く以外の場面でも役立ちます。
常識に縛られない自由な発想力が育まれる
「絵とはリアルに描かなければならない」「正しいパースで描くべきだ」という固定観念を、キュビズムは根本から揺さぶってくれます。ルールを疑うことで新しい表現が生まれるということを、体感として学べる表現法です。
キュビズムを学ぶと、「絵はこうでなければならない」という先入観が少しずつほぐれていきます。その感覚は、他の表現技法にも良い影響を与えます。
たとえば写実的な絵を描くときも、「このモチーフを少し変形して見せたら面白い」「背景をこの色にしたら意図が伝わりやすいかも」という発想が生まれやすくなります。キュビズムの訓練は、表現の選択肢を広げてくれるといえます。
画面構成のバランス感覚を養える
複数のパーツを一枚の画面に配置するキュビズムの作業は、否応なしに「構図の力」を意識させてくれます。どこに何を置くか、どこを空けるか、どこに視線を誘導するか、といった判断の積み重ねが、画面全体のバランスを作っていきます。
| 通常の絵画 | キュビズム |
|---|---|
| 視点がひとつ=構図の選択肢が限られる | 複数の視点=配置の自由度が高い分、構成力が試される |
| 遠近法という明確なルールがある | ルールがないぶん、独自のバランス感覚が求められる |
| リアルさが評価基準のひとつ | 意図と表現の一致が問われる |
この表が示すように、キュビズムは自由度が高い反面、構成力を自前で作り出さなければなりません。最初は難しく感じますが、続けることで「画面の重心を感じる感覚」が少しずつ育まれていきます。
画面の中心から少し外れた位置に「重心」となるパーツを置くと、画面に動きと緊張感が生まれます。黄金分割の考え方をゆるく参考にするのも有効です。
この構成感覚はキュビズムに限らず、写真・グラフィックデザイン・インテリアなど、あらゆる視覚的な表現に応用できます。アートの練習が、見え方の感性を豊かにしてくれるという典型的な例といえるでしょう。
キュビズムを代表する画家と作品から学ぶ
パブロ・ピカソの描き方:《アヴィニョンの娘たち》と《ゲルニカ》
ピカソはキュビズムの最も代表的な画家であり、その描き方から学べることは非常に多くあります。
1907年の《アヴィニョンの娘たち》では、5人の女性の身体が幾何学的に変形されており、正面と側面の顔が混在しています。特に画面右側の2人の顔は、アフリカの仮面の影響を受けた強烈な歪みが見られ、キュビズムの出発点となった実験精神が凝縮されています。
一方、1937年の《ゲルニカ》はキュビズムをさらに発展させた作品です。スペイン内戦のゲルニカ爆撃を主題にしており、絶叫する人間や動物の姿を断片化・変形することで、戦争の恐怖と混乱を視覚的に表現しています。
ピカソの描き方の最大の特徴は、「感情の強度に応じて形の歪みを調整する」点にあります。感情が強い部分ほど形が大きく崩れ、それが絵の訴求力を生んでいます。
ジョルジュ・ブラックの描き方:分析的キュビズムの極致
ブラックはピカソとともにキュビズムを創造した人物ですが、その描き方はピカソとは性格が異なります。ブラックの作品はより落ち着いた調和があり、画面の構造的な統一感に優れています。
ブラックが得意としたのは、ギター・マンドリン・新聞紙などの静物を題材にした作品です。これらをベージュ・グレー・オリーブの限られた色調で描き、複雑に面が重なり合う画面を構成しました。
ブラックの作品から学べるのは「節制の美学」です。色を絞り、形をシンプルに保ち、余計な要素を省くことで、かえって画面に深みが生まれることを教えてくれます。
コラージュ技法(パピエ・コレ)を最初に試みたのもブラックとされており、総合的キュビズムへの移行でも重要な役割を果たしました。
フアン・グリスの描き方:総合的キュビズムの完成形
スペイン出身のフアン・グリスは、ピカソ・ブラックに次ぐキュビズムの第三の巨人として知られています。特に総合的キュビズムの段階において、最も洗練された作品を残した画家です。
グリスの特徴は、色彩の豊かさと画面構成の明快さにあります。分析的キュビズムの複雑さを保ちながら、より鮮やかな色彩と明快なシルエットを用いることで、「美しく整った」キュビズムを実現しました。
グリス自身は「総合から分析へ」という逆向きの考え方で制作したと言っています。まず画面全体の構成(抽象的な形と色の配置)を決め、そこから「何に見えるか」を後から割り当てるという方法です。
グリスの「構成を先に決める」アプローチは、初心者が試すと画面がまとまりやすくなる実用的な手法です。最初に大きな幾何学形を3〜5個配置し、後からモチーフの意味を加えていくやり方が参考になります。
グリスの作品を参考にするとき、特に注目してほしいのは「色の置き方」です。ひとつのパーツに複数の色を塗り分けることで、光の当たり方や面の変化を暗示しています。色彩の使い方に一定のルールと論理が感じられ、学びやすい画家のひとりといえます。
まとめ:キュビズムの描き方をマスターして表現の幅を広げよう
ここまで、キュビズムの基本的な考え方から具体的な描き方の手順、注意点、そして代表的な画家の作品まで、幅広く見てきました。最後に、大切なポイントを振り返っておきましょう。
キュビズムとは、対象をひとつの視点から描くのではなく、複数の視点から見た形を一枚の画面に同時に表現する方法です。形を幾何学的に分解し、遠近法を放棄し、色彩を絞ることで、対象の「構造」と「本質」を浮かび上がらせようとする表現法といえます。
描き方の核心は、「観察→分解→再構成」という3つのステップです。それぞれのステップに「なぜそうするのか」という意図を持つことが、キュビズムを単なる形崩しと区別する境界線になります。
よくある失敗として、形を崩しすぎて何が描かれているか分からなくなること、機械的なパズル作業に陥ること、画面がバラバラになってしまうことが挙げられます。これらを防ぐには、描く前に「この絵で何を伝えたいか」を言語化しておくことと、色彩と線の方向を統一することが有効です。
ピカソ・ブラック・グリスという3人の画家の作品を参考にすることで、キュビズムの多様な可能性が見えてきます。感情の強度で形を変えるピカソ、節制の美学を追求したブラック、構成を先に決めるグリス、それぞれのアプローチは初心者にとっても参考になる視点を持っています。
キュビズムを学ぶことは、描く力だけでなく、物を見る力・発想する力・構成する力を同時に育てます。「上手く描こう」というプレッシャーを少し手放して、「このモチーフをどう分解して見せようか」という探索の感覚で、ぜひ一度手を動かしてみてください。最初の一枚が、あなたの表現の幅を大きく広げるきっかけになるはずです。

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