グリザイユ画法という言葉を聞いて、「なんだか難しそう」と感じた方は多いのではないでしょうか。
耳慣れない響きのせいか、上級者向けの技法というイメージを持たれがちですが、実はデジタルイラストを描く方にとって、とても理にかなった塗り方のひとつです。
グリザイユ画法とは、ひとことで言えば「グレースケールで陰影を描いてから色を乗せる」という手順で絵を仕上げていく技法のこと。色と明暗を分けて考えることで、絵のまとまりが生まれやすく、初心者でも立体感のある作品に仕上げやすいのが特長です。
この記事では、グリザイユ画法の基本的な意味や歴史から始まり、具体的な塗り方の手順、デジタルツール別の使い方、応用テクニック、よくある失敗と解決策まで幅広く解説しています。
「グリザイユって何?」という入門段階の方にも、「もっとうまく活用したい」という方にも、役立つ内容になっていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
グリザイユ画法とは?結論からわかる基本まとめ
グリザイユ画法の定義と概要
グリザイユ画法(Grisaille)とは、最初にグレースケール(無彩色)だけで明暗・陰影を描き、その上から色を重ねていく絵画・イラスト技法のことをいいます。
「Grisaille(グリザイユ)」という言葉はフランス語で、「灰色(gris)」を語源としています。文字通り、灰色の階調だけで絵の立体感を作り上げてから着色するというプロセスが、この技法の核心です。
通常の塗り方では、色と明暗を同時に考えながら塗り進めるため、初心者には「どこが明るくてどこが暗いのか」「この色は合っているのか」と頭が混乱しやすい場面があります。グリザイユ画法はその問題を分割して解決する発想で成り立っており、まず白黒で形と立体感を完成させてしまうことで、着色のステップに集中できるようになります。
グリザイユ画法の最大の特長は、「明暗を決める作業」と「色を決める作業」を完全に分離できる点にあります。
デジタルイラストにおいては、グレースケールで描いた下地にオーバーレイや乗算などの合成モードを使って色を乗せることが一般的です。この方法を使うと、下地の白黒情報が残ったまま色が発色するため、自然な陰影のついた着色が可能になります。
グリザイユ画法の歴史と由来(古典絵画との関係)
グリザイユ画法は、ルネサンス時代のヨーロッパで広く使われていた技法です。当時の画家たちはキャンバスに絵を描く際、いきなり色を塗るのではなく、まず白黒や茶系の下地で全体の陰影を描き上げてから色彩を重ねるというプロセスをとっていました。
特に油絵の世界では、グリザイユ技法は単なる下塗りの域を超えていました。グリザイユだけで完成させた作品を独立した絵画として仕上げることもあり、彫刻のような立体感を平面に表現する手法として高く評価されていました。フランドル絵画(現在のベルギー・オランダ周辺)の画家たちが特にこの技法を発展させたとされています。
ヤン・ファン・エイクやハンス・メムリンクといったフランドル派の画家たちが油絵の技法を精緻化していく中で、グリザイユはその基盤技術として重要な役割を担っていました。
こうした歴史的背景を知ると、グリザイユ画法が単なる「便利なテクニック」ではなく、長い歴史の中で磨き上げられた本格的な技法であることがわかります。現代のデジタルイラストに受け継がれているのも、それだけ理にかなった手順だからこそといえるでしょう。
デジタルイラストと従来の画法との違い
アナログの油絵でグリザイユ技法を行う場合、乾燥を待ちながら層を重ねていくため、時間と根気が必要でした。しかしデジタルイラストでは、レイヤーという概念があるため、グリザイユのプロセスがより手軽に、かつ可逆的に行えるようになっています。
| 比較項目 | アナログ(油絵など) | デジタルイラスト |
|---|---|---|
| 下地の乾燥 | 必要(数時間〜数日) | 不要(即時) |
| やり直しやすさ | 難しい(重ね塗りで修正) | 容易(レイヤーで管理) |
| 合成モード | 使えない(手動で色を混ぜる) | オーバーレイ・乗算などが使える |
| 色の調整 | 絵の具の混色が必要 | 色調補正で後から変更可能 |
| 立体感の出し方 | グレーの顔料を塗り重ねる | グレーのブラシで描き込む |
デジタル環境では、グレースケールの下地レイヤーを保ったまま上に色レイヤーを自由に追加できます。色が気に入らなければそのレイヤーだけを削除・調整すれば済むため、試行錯誤がしやすい点は大きな利点です。
アナログの油絵では一度重ねた色を完全に消すことはできませんが、デジタルでは何度でも着色をやり直せます。これはグリザイユ画法の「明暗と色の分離」というコンセプトを最大限に活かせる環境ともいえます。
また、デジタルではグラデーションマップという色調補正機能を使うことで、グレースケールの絵に一括で色彩を割り当てることもできます。アナログではできない操作であり、デジタル独自のグリザイユ表現が可能になっています。
グリザイユ画法のメリット・デメリット
メリット①:絵にまとまりが生まれやすい
グリザイユ画法の大きな魅力のひとつは、完成した絵にまとまり感が生まれやすいことです。グレースケールで全体の明暗を統一してから色を乗せるため、バラバラな色彩でも自然と統一感のある仕上がりになります。
絵が「なんとなく色がバラバラに見える」「統一感が出ない」と感じる場合、その多くは明暗の管理が原因です。
グリザイユ画法では最初にグレースケールで全体の明暗を決めてしまうため、後から色を重ねても下地の明暗情報が生きています。どんな色を乗せても、光と影のバランスが崩れにくいのです。
メリット②:色の吟味がやりやすく着色が簡単
色と形・立体感の作業を分けることで、着色の際に「この部分はどんな色にすればよいか」だけに集中できるようになります。
形と陰影がすでに完成しているため、色のテストがしやすいのも特長です。たとえばオーバーレイレイヤーに色を乗せてみて「ちょっと違うな」と思ったら、そのレイヤーだけを変更すればよく、下地のグレースケールには影響しません。
色の選択に自信がない初心者の方ほど、着色の試行錯誤がしやすいグリザイユ画法は取り組みやすい技法といえます。
メリット③:短時間で立体感のある厚塗りが仕上がる
グリザイユ画法はデジタルの厚塗りスタイルと非常に相性がよく、短時間でボリューム感のある絵に仕上げられます。
通常の厚塗りでは、色を重ねながら同時に立体感も作っていくため、時間がかかりやすい傾向があります。グリザイユ画法ではグレースケールで立体感の基礎をつくり終えてから着色するため、仕上がりのスピードが速くなりやすいです。
作業効率を重視するイラストレーターや、締め切りのある商業制作の場面でも活用されているのは、こうした時間面でのメリットがあるからといえるでしょう。
メリット④:デッサン力・陰影感覚が自然と鍛えられる
グリザイユ画法を続けることで、デッサンや陰影の感覚が自然と身につくという副次的な効果もあります。
グレースケールで陰影を描く段階では、光源の位置や物体の丸み、奥行きをしっかり意識しなければなりません。この作業を繰り返すことで、立体感を捉える目が養われていきます。
グリザイユ画法は「絵を完成させる技法」であると同時に、「絵を上達させるトレーニング」にもなる一石二鳥の技法です。
色のごまかしが効かないグレースケールの段階で形を整える習慣は、どの画風にも応用できる基礎力につながります。
デメリット・注意点:不透明色や色の重ねすぎに気をつけよう
グリザイユ画法にも気をつけるべき点はあります。最も多い問題は、着色時に不透明色を使ってしまうことです。
グリザイユ画法はグレースケールの下地が透けて見えることで成立する技法です。不透明度の高い色を重ねると下地の明暗情報が隠れてしまい、グリザイユの効果が失われます。
| 注意ポイント | 問題の内容 | 対処法 |
|---|---|---|
| 不透明色の使用 | 下地の明暗が隠れる | オーバーレイ・乗算モードを使う |
| 色の重ねすぎ | 色が濁る・くすむ | レイヤー数を絞り整理する |
| グレーが明るすぎる | 着色後に色が薄くなる | グレーの段階で暗部をしっかり描く |
| 乾燥前の重ね塗り(アナログ) | 絵の具が混ざる | 乾燥を十分に待つ |
特に初心者が陥りやすいのは、「もっと鮮やかにしたい」と思って通常レイヤーで不透明な色を重ねてしまうパターンです。こうすると下のグレースケールが隠れてしまい、せっかく描いた陰影が見えなくなってしまいます。
色を重ねるときは合成モードを意識し、下地が透けて見える状態を保つことが、グリザイユ画法を活かすための基本です。また、レイヤーが増えすぎると管理が煩雑になるため、各工程でフォルダにまとめたり、不要なレイヤーを結合したりする整理の習慣をつけることも大切です。
グリザイユ画法の塗り方・手順をメイキングで解説
STEP1:線画・ラフを描く
最初のステップは、通常の絵と同じく線画またはラフスケッチを描くことです。グリザイユ画法だからといって特別なラフの描き方は必要なく、いつも通りの線画レイヤーを用意すれば問題ありません。
ただし、この段階でしっかりとした下描きを用意しておくと、グレースケールの段階で迷いなく陰影を描き込めます。シルエットや構図、パーツの位置関係がはっきりしていると後の工程がスムーズになります。
STEP2:グレースケールで陰影をつける(下塗り)
グリザイユ画法の核心となるステップです。線画の下、または別レイヤーに白〜灰色〜黒のみを使って陰影を描き込みます。
この段階で陰影の完成度が高いほど、着色後の仕上がりクオリティも上がります。
まず中間調のグレー(RGB値でいう50%グレー程度)をベースに塗りつぶし、光が当たる部分を白寄りに、影になる部分を黒寄りに描き込んでいきます。エアブラシや柔らかいブラシを使うと自然なグラデーションが作れます。
この段階では色のことは一切考えず、「どこが光っていてどこが影になっているか」だけに集中することがポイントです。
STEP3:発色をよくする下地レイヤーを作る
グレースケールの上に薄い色のレイヤーを「通常モード」で敷いておくと、後から乗せる色が鮮やかに発色しやすくなります。特にグレースケールのみだと着色時に色がくすんで見えることがあるため、この下地を入れるひと手間が仕上がりを大きく変えます。
肌色や暖色系の絵を描く場合は、薄いオレンジや黄色の下地を敷くと着色後の色味がより自然に映えます。
たとえばキャラクターの肌を塗りたい場合、肌に該当する部分に薄いベージュ〜ペールオレンジを通常モードで低い不透明度で敷いておくと、グレーの陰影に自然な温かみが加わります。
STEP4:オーバーレイ・乗算レイヤーで色をつける
いよいよ着色の段階です。グレースケール層の上に新しいレイヤーを作成し、合成モードを「オーバーレイ」または「乗算」に設定してから色を塗ります。
オーバーレイモードは下地の明暗を活かしながら色を鮮やかに発色させる効果があり、明るい部分はさらに明るく、暗い部分はさらに暗くなる特性を持ちます。乗算モードは下地の色と合成した色が掛け合わされるため、より暗さや影の深みを加えたいときに向いています。
1枚のレイヤーで全体を塗りつぶすような使い方でも十分効果が出ますが、パーツごとにレイヤーを分けておくと後から色の調整がしやすくなります。
STEP5:グラデーションやハイライトを入れる
基本の着色ができたら、グラデーションやハイライトを加えて完成度を高めます。この段階ではオーバーレイレイヤーや加算(発光)モードを活用すると、光の当たり具合を自然に表現できます。
ハイライトは真っ白を使いすぎると浮いて見えるため、白に近い薄いカラーを選ぶのがコツです。
グラデーションツールを使って全体に色の変化をつけることも有効で、たとえばキャラクターの上半身は暖色系、下半身は寒色系にグラデーションをかけるだけで、イラスト全体に奥行きと雰囲気が生まれます。
STEP6:通常レイヤーで仕上げ・細部の描き込みをする
最後のステップは、通常レイヤーを使った細部の仕上げです。目の輝き、服のシワの線、髪の毛の細い線など、合成モードでは表現しにくいディテールをここで加えます。
通常レイヤーで加える描き込みは必要最低限にとどめ、あくまでグリザイユの効果を活かした状態を保つことが大切です。最終的なカラーバランスを確認しながら、色調補正レイヤーで全体のトーンを整えて完成となります。
グリザイユ画法における合成モードの使い方
オーバーレイと乗算の違い・使い分け
グリザイユ画法において、着色に使う合成モードの選択は仕上がりを大きく左右します。特によく使われるのが「オーバーレイ」と「乗算」の2つです。
| 合成モード | 特性 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| オーバーレイ | 明部は明るく・暗部は暗くなる。彩度が上がりやすい | 全体への着色・鮮やかな発色を出したいとき |
| 乗算 | 色が暗い方向に合成される | 影・暗部への色味追加・落ち着いた質感 |
| スクリーン | 色が明るい方向に合成される | 光・ハイライト・透明感の表現 |
| 加算(発光) | 強い発光感が出る | 光源・魔法・エフェクト表現 |
オーバーレイは最も汎用性が高く、グリザイユ画法における基本的な着色モードといえます。下地のグレースケール情報を最大限に活かしながら、鮮やかな色彩を乗せられるのが大きな利点です。
乗算モードはその名の通り色が掛け算されるため、白い部分には影響が少なく、暗い部分には強く効果が出ます。影の色を追加したいときや、全体的にトーンを落ち着かせたいときに有効です。2つを組み合わせて使う場合、オーバーレイで全体の色を決めてから乗算で影の深みを足すという手順がよく使われます。
合成モードの選択に正解はなく、自分の描きたい雰囲気に合わせて試しながら選ぶことが上達への近道です。
グラデーションマップを活用した色調補正
グラデーションマップとは、画像の明暗(黒〜白)に対して任意の色を割り当てる色調補正機能です。グリザイユ画法と非常に相性がよく、グレースケールの絵に一括で色彩を与えることができます。
たとえば暗部に紺色・中間調にオレンジ・明部に黄色を設定したグラデーションマップを使えば、一瞬で夕暮れのような色調に変換できます。色の組み合わせを変えるだけで全体の雰囲気が大きく変わるため、配色のバリエーションを試したいときに非常に便利です。
グラデーションマップはデジタルイラスト特有の機能で、CLIP STUDIO PAINTやPhotoshopなど多くのソフトで利用できます。
色調補正機能でベストな色合いを選ぶ方法
グリザイユ画法で着色した後、色が全体的に暗すぎたり薄すぎたりすることがあります。そのときに役立つのが色調補正機能です。
「トーンカーブ」「色相・彩度」「明度・コントラスト」などの補正レイヤーを最上部に置き、全体のバランスを整えます。これらはあくまでレイヤーとして非破壊的に適用されるため、元の絵には影響を与えずに色合いを調整できます。
特にトーンカーブは明暗と色の両方を細かく調整できる強力なツールで、慣れてくると仕上がりの品質を大きく高めることができます。最初は少しずつ動かしながら変化を確認する習慣をつけるのがおすすめです。
ツール別・画材別グリザイユ画法の描き方
CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)でのグリザイユ画法
CLIP STUDIO PAINT(通称クリスタ)はグリザイユ画法との相性が非常によく、多くのイラストレーターが愛用しているソフトです。
クリスタでグリザイユ画法を行う際の基本的な流れは次の通りです。
- 線画レイヤーを作成する
- 線画の下にグレースケールレイヤーを作成し、白〜黒で陰影を描く
- グレースケールレイヤーの上にオーバーレイや乗算モードのレイヤーを追加して着色
- 色調補正レイヤー(トーンカーブ・色相彩度)を最上部に配置して全体を調整
クリスタにはレイヤーフォルダにクリッピングマスクを適用する機能もあるため、グリザイユレイヤーのグループ内にオーバーレイレイヤーをクリッピングしておくと、範囲外にはみ出さず効率よく着色できます。
クリスタのグラデーションマップ機能は「レイヤー→新規色調補正レイヤー→グラデーションマップ」から簡単に呼び出せます。
Procreateでのグリザイユ画法
iPad向けアプリのProcreateでもグリザイユ画法は十分に実践できます。Procreateはレイヤー数の上限がデバイスのRAMに依存するため、レイヤー数を増やしすぎない点には注意が必要です。
Procreateでの操作手順はクリスタと大きく変わらず、グレースケールで陰影を描いたレイヤーの上にオーバーレイレイヤーを追加して色を乗せていく流れになります。Procreateのブラシは多彩でテクスチャが豊かなため、厚塗り感のある仕上がりを目指す方に特におすすめです。
色調補正については、レイヤーを選択した状態で「調整」から「曲線(カーブ)」や「色相・彩度・明度」を選ぶことで対応できます。
SAI・FireAlpacaでのグリザイユ画法
SAIやFireAlpacaはシンプルなUIが特長で、グリザイユ画法の基本手順を学ぶのに向いているソフトともいえます。ただし、SAIはバージョンによってはオーバーレイの使い勝手に制限があるため、乗算レイヤーを中心に活用するのが現実的です。
FireAlpacaはオーバーレイ・乗算・スクリーンなどの主要合成モードが揃っており、無料ソフトながらグリザイユ画法の基本的な作業を一通り行えます。グラデーションマップ機能はないものの、色相・彩度の調整やトーンカーブで着色後の色調整は可能です。
油絵におけるグリザイユ技法
油絵でのグリザイユ技法は、この画法の起源でもあります。鉛白(フリッケン)や黒い絵の具を使い、白〜グレー〜黒の階調で陰影の下地をつくります。
油絵でグリザイユを行う際は、各層をしっかり乾燥させてから次の層を重ねることが必須です。乾燥前に着色すると絵の具が混ざり、色が濁る原因になります。
下地が乾いたら、透明度の高い薄い油絵の具を使ってグレーズ(薄塗り)で色を重ねていきます。透明色で重ねることでグリザイユの陰影が透けて見え、独特の深みと艶のある質感が生まれます。
水彩画におけるグリザイユ画法と注意点
水彩でもグリザイユの考え方を応用することはできますが、いくつかの注意点があります。水彩は絵の具の透明度が高いため、下地のグレーが透けやすい点はグリザイユに向いているといえます。
ただし水彩は重ね塗りの際に下の層が溶けやすく、グレースケールで描いた層がにじんでしまうことがあります。対策としては、ウォーターフォードなどのしっかりした水彩紙を使うことや、グレー層をしっかり乾燥させてから透明水彩で色を重ねることが重要です。
アクリル絵の具でのグリザイユ画法
アクリル絵の具は油絵よりも乾燥が早く、グリザイユの下地作成がしやすい画材です。水で薄めて透明度を上げることもでき、油絵と水彩の中間のような使い方ができます。
アクリルでグリザイユを行う場合、白・黒・グレーのアクリル絵の具を用意し、下地の陰影を描いてから乾燥後に透明度を高めたアクリルで重ねていきます。メディウム(リターダーなど)を混ぜることで乾燥速度をコントロールできるため、グラデーションを作りやすくなります。
グリザイユ画法の応用テクニック
厚塗りスタイルへの応用
グリザイユ画法は厚塗りとの相性が非常によく、ゲームのキャラクターやファンタジーイラストなど、リアルで重厚感のある表現を目指す方に広く使われています。
厚塗りでグリザイユ画法を使う場合、グレースケールの段階でより細かく描き込むことが仕上がりクオリティの鍵です。
グレー段階でしっかりと光と影の境界線を描き、テクスチャのような質感まで描き込んでおくと、着色後も情報量の多い絵になります。最終的な仕上げ段階で通常レイヤーを使い、鎧の傷や布の繊維感などの細部を描き足すと、さらにリアルな厚塗り感が増します。
背景・風景画へのグリザイユ活用法
背景や風景画にグリザイユ画法を応用すると、空気遠近法(遠くのものを薄く・近くのものを濃くする表現)を自然に表現できます。
手前の建物や木は暗めのグレー、遠くの山や空は明るめのグレーで描くことで、奥行きのある空間を白黒段階でしっかり表現できます。着色後もその奥行き感が保たれるため、風景のスケール感が出やすい仕上がりになります。
背景に複数の光源がある場合は、グレースケール段階で光源ごとに陰影を整理してから描くと、着色後の混乱を防げます。
キャラクターの肌・体の塗り方への応用
キャラクターの肌塗りにグリザイユ画法を取り入れると、血色感やリアルな体の丸みを自然に表現できます。グレーの段階で鼻の陰、頬骨の光、首の影などをしっかり描き込んでおくと、着色後に肌の立体感が際立ちます。
着色の際は、肌の温かみを出すためオレンジ〜ピンク系のオーバーレイカラーを使うのが一般的です。頬や指先など血色が出やすい部分には、より濃い赤みをスポットで乗せると自然な肌の色彩表現に近づきます。
テクスチャや筆跡を残してクオリティをアップする方法
グリザイユ画法の仕上げ段階で、テクスチャや筆跡を意識的に残すことで、手描き感のある温かみのある絵に仕上げられます。
デジタルでは素材テクスチャを最上部のレイヤーにオーバーレイやソフトライトモードで乗せることで、キャンバスや紙の質感を加える方法がよく使われます。また、グレースケール段階から硬めのブラシで塗ることで、着色後も筆跡が残り、アナログ的な質感を出せます。
テクスチャの強度(不透明度)は5〜20%程度に抑えると、主張しすぎずに自然な質感として機能します。
グリザイユ画法でよくある失敗と解決策
陰影がうまくつかないときの対処法
グリザイユ画法を始めたばかりの方が最もつまずきやすいのが、グレースケール段階での陰影表現です。「なんとなく全体的にフラットに見える」「立体感が出ない」という悩みが多く聞かれます。
こうした問題の原因は大きく2つ考えられます。ひとつは光源の位置が定まっていないこと、もうひとつはグレーの明暗幅が狭すぎることです。
- 光源を1点に決めてから描き始める
- ハイライト部分はほぼ白(明度90%以上)、最暗部は濃いグレー〜黒(明度20%以下)になるよう意識する
- 参考として球や立方体のグレースケール練習を行う
明暗のコントラストが不足すると、着色後も平面的な印象になってしまいます。グレースケール段階で「これは少し暗すぎるかな」と感じるくらいの暗部を作ることが、完成時のメリハリにつながります。参考になる光源の写真を見ながら描くのもよい方法です。
陰影の不足は着色後の修正が難しいため、グレー段階で徹底的に描き込む習慣をつけることが最重要です。
色が濁る・くすむときの原因と改善方法
グリザイユ画法で着色した後、色が思ったより濁っていたりくすんで見えたりすることがあります。原因として最も多いのは、グレースケールの下地が暗すぎることと、合成モードの選択ミスです。
グレーが全体的に暗すぎると、オーバーレイで色を乗せても暗部が際立ちすぎて鮮やかさが失われます。グレー段階での中間調〜明部をもう少し明るめに設定することで、着色後の発色が改善される場合があります。
色調補正レイヤーの「色相・彩度」で彩度を上げたり、「トーンカーブ」で全体の明度を底上げしたりすることも有効な手段です。乗算モードを使いすぎている場合はオーバーレイに切り替えるだけで鮮やかさが戻ることもあります。
色を重ねすぎてしまうときの注意点
グリザイユ画法に慣れてくると、「もう少し色を調整したい」とレイヤーを重ねすぎてしまうことがあります。レイヤーが増えすぎると全体の色がどこから影響を受けているのかが把握しにくくなり、修正作業も困難になります。
- 同じ合成モードのレイヤーは随時統合する
- フォルダ分けで工程ごとに管理する
- 色の調整は色調補正レイヤーで一元管理する
着色レイヤーは工程ごとに1〜2枚を目安として、それ以上増やしたいと感じたら一度統合することをおすすめします。後から色を変えたい場合に備えて、統合前のバックアップを別フォルダに保存しておく習慣もつけると安心です。
「レイヤーを増やすほど調整の自由度が上がる」という感覚は正しいですが、管理できる枚数を超えると逆に非効率になります。
まとめ
グリザイユ画法は、明暗と着色を分離して考えるというシンプルな発想を基本としながら、初心者からプロまで幅広く活用できる奥深い技法です。
まず白黒で立体感をしっかり作ってから色を乗せるというプロセスは、絵全体のまとまりを生みやすく、着色の試行錯誤も気軽に行える利点があります。歴史的にはルネサンス時代の油絵技法に起源を持ちながら、現代のデジタルイラストにおいてもその本質は変わらず受け継がれています。
手順としては、線画の準備から始まりグレースケールで陰影を構築し、オーバーレイや乗算などの合成モードで色を乗せて、最後に細部を仕上げるという流れが基本です。使用するツールがクリスタでもProcreateでも、あるいは油絵やアクリルといったアナログ画材であっても、グリザイユの考え方そのものは変わりません。
よくある失敗として陰影の不足や色の濁りがありますが、グレースケール段階でコントラストをしっかりつけることと、合成モードの使い方を意識することで多くの問題は改善できます。
グリザイユ画法は一度覚えると、絵を描くすべての場面で活用できる知識になります。まずは小さなラフ絵でよいので、白黒で陰影を描いてから色を乗せてみるところから試してみてください。思いのほかスムーズに立体感が出る体験が、グリザイユ画法の面白さを実感する最初の一歩になるはずです。

コメント